インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷問題が連日報道される。しかし、インターネットが注目されるあまり、既存メディアがこのような問題で果たしている負の役割に目が向けられていないことに、筆者は強い危機感を抱いている。
山口真一(やまぐち・しんいち)さん 1986年生まれ。国際大学GLOCOM准教授(計量経済学)。近著に「正義を振りかざす『極端な人』の正体」。
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10月26日、秋篠宮家の長女眞子さんと小室圭さんが結婚した。しかし、2人の結婚をめぐっては、インターネット上で激しい非難・誹謗中傷が巻き起こり、眞子さんが複雑性PTSDの診断を受けたことを宮内庁が発表する事態となった。
だが経緯を点検すると、既存メディアの動きが事態に大きな影響を与えていたことが見えてくる。小室家の金銭トラブルについてある雑誌がスクープしたことを機に、様々な雑誌が「疑惑」と否定的な記事を大量に発表していった。さらにテレビも情報番組などで、ことあるごとに疑惑や批判を紹介した。結婚直前も、カメラが小室さんにしつこく張り付き、取材を無視されたことに対する批判や、髪形がおかしいといったコメントを連発していた。
ここで起こったのが、既存メディアとインターネットの共振現象だ。インターネット上の批判的な声を踏まえて既存メディアがネガティブな報道をし、既存メディアを見てそれを知った人がまたインターネット上に投稿し――と繰り返すことで相乗効果が起きて、かつてない規模の誹謗中傷や悪意ある噂(うわさ)が広がっていったのである。
帝京大の吉野ヒロ子准教授が、ネット炎上(インターネット上に批判や誹謗中傷が殺到する現象)の認知経路について、興味深い研究を発表している。1118人を対象としたアンケートの結果、ネット炎上を見聞きした媒体として、ツイッターと答えた人が23・2%であったのに対し、テレビのバラエティー番組が58・8%だったのである。ネット炎上とはいうが、それを広げているのは既存メディアなのだ。
振り返ると、既存メディアとインターネットの相乗効果が破壊的なパワーを発揮してしまうことに、既存メディアが気付くチャンスは何度もあった。
例えば、新型コロナに感染し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル